歯科衛生士としてクリニックで仕事をしているときに患者様から”食事”について聞かれると困る方も多いのではないでしょうか。特に3歳までの食事は歯の病気だけではなく味覚形成も関わるので、将来を考えた食事指導が大切です。
そこで今回は、歯科衛生士が行う食事指導の重要性や歯科における食育の重要性、食事指導時のポイント3選などを元歯科管理栄養士がお伝えしていきます。
歯科衛生士が行う食事指導の重要性
ご存知の通り、歯の病気は全身の健康につながります。特に歯周病は糖尿病との関係性がエビデンスレベル高いものとして周知の事実です。そういった背景もあり歯の病気になる前はもちろん、歯の病気があっても全身の病気になる前の食生活改善を行い、不調もない未病の身体づくりをできるかが重要になります。
食生活を改善するためには食事指導が必要ですが、「甘いものを控えましょう」「お菓子はこれくらいがおすすめです」といった内容だけでは行動に移さない患者さんがほとんどでしょう。もう少し噛み砕くと、「行動に移さない」ではなく「わかっているけど、辞められない」方が多いのです。
本当の食事指導は「わかっているけど、辞められない」という方の行動変容を促し、解決することです。ただ単に、これはOK、これはNGと言うのではなく、人間の心理を考えたヘルスコーチングが求められています。
クリニックは両者の方と出会える数少ない場所です。患者様の現在〜将来の健康をサポートできるのが歯科衛生士の役割の魅力でしょう。
歯科における食育の重要性
ほとんどの方が、むし歯か歯周病かを入り口に、歯科クリニックへ訪れます。前述の通りどちらの予防も食生活改善が重要ですが、食生活は習慣です。習慣とは子どもの頃から形成されるため、いかに子どもの間に正しい習慣付けをされるのかが、将来の歯科疾患を左右します。
特に私たちは、3歳までに味覚形成が行われるといわれています。この間に「お菓子やジュースがやめられない」「3食しっかり食べない」などの習慣ができてしまうと生活習慣病まっしぐらです。
また食育を怠ると、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された理由の一つでもある「素材を活かした味付け」を好まない子どもが多くなり、結果、欧米食によって生活習慣病への道を助長してしまうでしょう。
そういった意味でも、歯科衛生士が子どもの味覚形成をサポートし、歯科疾患にならない食生活をサポートし、予防歯科につなげていきましょう。以下の記事も参考にしてください。
歯科衛生士による食事指導のポイント
歯科衛生士が食事指導に介入する重要性が理解できたところで、実践レベルでのポイントを3つお伝えします。
1.対象者に合わせた食事指導を行う
乳幼児、小学生、中学生、高校生、大学生、成人、高齢者など対象者によって必要な栄養素の質が異なります。たとえば乳幼児にはカルシウムや鉄などのミネラルが成長に重要ですし、中高生には運動量に合わせたカロリー摂取とカロリーだけに偏らないためのビタミン・ミネラル摂取、高齢者にはフレイル予防を考えたたんぱく質摂取が重要です。
そのうえで、口腔内の状態(噛める、噛めないなど)に併せた食材、調理法、料理、献立、食生活の提案を行いましょう。
2.病気の進行具合に合わせた食事指導を行う
今回は歯の病気の中でむし歯を例にお話しします。もし同じ食生活(お菓子の量も同じ)である全歯がC1状態のAさんと全歯がC3状態のBさんがいると仮定しましょう。
両者に食事指導をする場合、Aさんには「お菓子の量を抑えると今後むし歯が悪化しにくく生活習慣病予防にもなります」程度ですが、Bさんには「お菓子をやめて、食事で糖質も減らしていきましょう。悪化すると糖尿病やメタボリック症候群にもつながる可能性があります」と厳しい指導になります。伝える内容は同じですが、患者さんのタイプに合わせて言い方を代える工夫も必要です。
このように患者様の病気の進行具合と将来を考えた提案ができる食事指導、患者さん自身が自発的に行動できるようになるヘルスコーチングが理想です。
3.生活で実践できる食事指導を行う
上述した1.2を考慮した上で「患者様が自宅で本当に実践できる提案」が重要です。「食事で糖質を減らしましょう」といわれてすぐに減らせる方は少ないでしょう。その理由は、どの食品に糖質が入っているのか、ご飯を減らしたらお腹が満たされないのではないか、甘みが減ると美味しく食べられないのではないかなど疑問が残り実践できないのです。
そこで歯科衛生士として患者さんの食生活を聞いたうえで具体的に何をやめて何を追加しどんな調理をすれば美味しく食べられるのかといった提案が大切になります。患者さん自身が、自分から進んで行動できるように気付きを与えていきましょう。
他人の生活習慣を変えるのは容易ではありません。指導者が幅広く奥深い知識とスキルを持っているかで相手の行動変容を成功させられるのです。
食事指導に必要な知識・スキルを身につける方法
では歯科衛生士が食事指導に必要な知識やスキルを身につけるには、どうしたら良いのでしょうか。
知識は専門家や一次情報源から学び、スキルは自宅や仕事で実践し続けるのがおすすめです。ただし参考にする専門家や一次情報源は、信頼性があるか確かな判断が不可欠です。現代社会、様々な健康情報が飛び交っている中「実践者」だけが本物の知識やスキルを持っています。学ぶ側は「誰から学ぶのか」が重要なのです。
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記事監修・執筆者
一般社団法人日本和食ライフスタイリスト協会 代表理事
管理栄養士・和食ライフスタイリスト 合田 麻梨恵
初めての海外訪問時に日本との素材の違いに驚愕し、”和食の魅力”に目覚める。管理栄養士として不特定多数が購入するコンビニ弁当に携わり健康な方を増やしたいと考え、商品開発者に。しかし実際は仕事として毎日3食コンビニ食で激太り&心身ともに不調をきたし限界を感じたため、異なる方法で和食で健康になれる魅力を伝えようと決意し、独立。
和食料理教室を通じて100名様以上の不調改善に成功した「食」の面、全国の自然発酵生産者100軒以上の訪問による「農業・醸造」の面、論文2万件読破した「予防医学」の面から和食の研究を重ね、未病の身体づくりができる”令和の和食TM”を提唱。予防医学専門家養成や健康経営を通して働く人の健康サポートやメディア出演、監修など。