伝統製法で造られたお酢は全国でも10軒あるかどうかといわれている。そんな貴重なお酢屋さんの一つが、今回取材した山梨県都留市にある”戸塚醸造店”だ。今や、海外のシェフの舌をも唸らせる屈指の純米酢を造られている店主の戸塚治夫さんは、なんと元銀行マン!銀行マンからなぜ醸造の世界に入ったのか、今現在に至るまでのドラマのようなエピソード、醸造家としてのこだわりなど語ってくれた。
毎日こうじと酵母の声を聞き、幾度の天災を乗り越えて完成した”心の酢”
「先代から引き継いだはじめの1〜2年くらいは、美味しいお酢を造るためにはどうしたら良いのか全く分からず、サマーベッドで寝泊りしながらこうじと酵母と共に過ごす日々でした。」そう語る戸塚治夫さん。
元々銀行マンで、仕事としてお酢屋さんの廃業手続きを担当していた時に「こんな素晴らしいお酢がなくなるなんてもったいないなあ…。」と思ったところからお酢造りに興味を持ち、業界に飛び込もうと決意。先代のお酢屋さんで働き始めることとなったのです。さらに先代が引退を考えられていたタイミングで、お酢屋さんを引き継ぐことになり…と、ご縁が続き戸塚醸造店がスタートしていました。
しかし、先代に教えてもらっていたとはいえ、いざ自分だけでお酢を造るとなると、失敗が続き、試行錯誤を続けること約2年。
「果たしてこれは良い菌なのか?悪い菌なのか?菌がつくった膜を取りすぎるとダメな気がするし…。全然分からないから、専門的な本を読んでみようと思って本を読んでも、大学で専門的な勉強をしていた訳ではないので全く理解できなくて…。最終的には今の恩師にあたる方に懇願してアドバイスをいただきながら、試行錯誤を繰り返しました。
その間、発酵中にカメ壺の横で寝泊りしていたこともあります。すると、驚くことに良い菌・悪い菌の区別がつくようになるんですよね。そうやって、現場の感覚で経験を重ね、今の”心の酢”が誕生したのは、戸塚醸造店を開業して3年目のことでした」。
今でこそ楽しく話してくださるエピソードですが、当時は廃業寸前だったそうで、大変だったことが伺えます。
そんな必死の想いで、ようやく完成した”心の酢”。
「よし、売ろう!!」そう思った矢先、東日本大震災によりカメ壺が割れて一時中断。イチからカメ壺を準備することからやり直し、そして4年後、「よし、今度こそ売るぞ!!」と意気込んだところ山梨県の記録的豪雪により再び一時中断。
「またか…。と思っていたところ今の場所が空き、移転でき、やっとの想いで準備が整い、今度こそ自然災害に遭わないように祈って、ようやくある程度の規模で販売することができました。」と戸塚さんは言います。 何があっても諦めない姿勢を貫いたからこそ、国内外から評価される”心の酢”が世の中に存在するのだなと、お話を伺いしながら感じました。
”美味しさ”を追求した、5つのこだわり
「昔ながらの造り方」といいつつも、どこまで昔ながらなのかはメーカーさんそれぞれなのが実態ですが、戸塚醸造店の造り方は本当に昔の造り方に近い、自然任せ。今でも、毎日の手入れや管理を欠かしません。そんなこだわりを5つに分けて教えてくれました。
1:原料選び
「購入するのは、米、こうじ菌、酵母菌だけです。」と語るのは店主の戸塚さん。お米は山形県産の有機栽培米コシヒカリ、さらに仕込みに使う水は富士山伏流水という徹底ぶり。「お米は酒米用ではなく、ごはんとして食べる用とほぼ同じものを使用しています。その方が、お米の旨味や風味が残るのです。また、乳酸菌や添加物は一切入れません。」何を使うのか、からこだわっているからこそ為せる美味しさです。
2:こうじ造り
「こうじ室で、自分でこうじを造ります。機械造りではないので、温度管理も自分頼り。夜にも関わらず2〜3時間おきにチェックして、最高のこうじを造っています。」こうじ造りは、お米の糖を分解して甘みを出すために必要な手順。こうじの良し悪しで、完成品の味が左右されることもあるのです。だからこそ、こまめな管理で造られるこうじは、より洗練された美味しさを醸し出すのでしょう。
3:酵母を使い分けるお酒造り
「季節によって酵母を使い分けています。酵母にも、暑さに強い性質のものや寒さに強い性質のものなどたくさんいるのです。なので、都留市の気候で美味しく造れる酵母を使っています。」酵母は、できた米こうじの糖を分解して二酸化炭素とアルコールをつくり出す、お酒造りには欠かせない微生物です。お酢に適したお酒のアルコール度数や味わいを造れるまで、「ぷくぷくぷくっ」と二酸化炭素を出しながら働いてくれます。ここまでで約1〜2ヶ月。ようやく、お酢造りに入ります。
4:カメ壺で静置発酵のお酢造り
「譲り受けたカメ壺に酢酸菌を撒くと、うまいこと拡がってくれるんですよね。そうしたら酢酸菌が膜をつくるので、温度管理を入念に行います。もちろん、ここも指でチェック。感覚です。また、静置発酵をしていると時間が長くかかる分、酢酸菌が発酵します。すると、酸だけではなく甘みや旨みをしっかりと感じるお酢になるのです。」現在、流通のほとんどを占めているお酢は速醸法といわれる方法で、静置発酵の半分以下の時間で造られています。他にも理由はありますが、そういった違いが味の違いに繋がるのです。
5:美味しさの決め手、上澄み無ろ過
「先代は出荷前にろ過をしていたので、私も当初はろ過をしていました。ただある時、ろ過をしない方が美味しくないか?と思い、ろ過有りとほぼろ過無しの両方を販売し、常連のお客様に感想を聞いたのです。そうしたら、ほぼろ過無しの方が美味しい、と返答をいただきました。そこからろ過は最低限の上澄みだけにしています。」ゼロからお酢を造っているからこそ、一つ一つの作業に疑問を持ち、これまでのやり方に拘らず、より美味しい造り方へと変化させていくことができるのです。
「お客様からの期待を裏切らないように。真心込めてお酢を造り続けています。」
その言葉通り、戸塚醸造店がスタートしてから休む暇なく、真心込めてお酢を造り続けている戸塚さん。こだわり抜いてできた美味しさがあるのはもちろんのこと、「自分から営業したことはない。」「お客さんが配ってくださることもある。」とお客様との信頼を守り続けるからこそ、オンラインや口コミで拡がり続けている”心の酢”。「手造りなので、発注をいただいても大量に造ることはできません。すでに愛用してくださっているお客様を大切にして、今日も明日も造り続けます。」そんな真心のこもった”心の酢”は今日もまたどこかの食卓で重宝されているでしょう。
編集後記:ひときわ異なる味を醸す”心の酢”。
今回戸塚醸造店さんのほかにも、お酢屋さんをいくつか周り手に入れたお酢を味比べしてみました。”心の酢”を口に入れると、入れた後の余韻に深みのある美味しさを感じました。これが、海外のシェフを魅了をした理由の一つでしょう。心の酢さえあれば、普段の酢の物や酢漬けなどワンランク上の仕上がりになるのは間違いなし!栄養バランスの整った食事に”心の酢”をプラスして、美味しくて健康的な和食ライフを楽しみましょう。
<今回の取材先>
戸塚醸造店
住所:山梨県都留市夏狩253
電話番号:0554-56-7431
駐車場:あり
公式HP:https://kokoronosu.jp/
※オンラインショップ、店頭販売あり
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